近視の常識
酸素が十分に行き渡らなかったことや、麻酔導入に伴い患者さんのストレスがとれたせいで、前身の血管が拡張して血圧が三○程度まで急激に下がったり、逆に麻酔の濃度は十分であるのにもかかわらす、血圧が二○○以上になったりというようなことに、よく遭遇しました。
全身状態の悪い緊急手術では、不測の事態がよく起こりました。
出血性ショックから、脈を触れなくなり、急速輸血を大勢でやったり、腎不全になりそうになって、あわてて急速輸液や利尿剤を投与したり、心筋梗塞を起こしたり、さまざまな不整脈が出現したりしました。
このような事態には、一瞬の処置の遅れが生命に直結するので、ほとんど反射的に判断して、行動しなければなりません。
迅速に的確な処置をとれば、全く問題はありません。
しかし、手術前から心不全や呼吸不全のある患者さんは、呼吸器や循環器のちょっとした変化があるだけで、術後の機能不全に陥ることがあります。
特に血圧が低いショック状態の患者さんの場合には、ショックの原因が、輸液や輸血が足りないのか、心臓の機能不全なのか、細菌が体にまわる細菌性のものなのか、アレルギーによるものなのかを判断して処置を行なわなければなりません。
これらの重症患者さんには、強心剤や血圧降下剤や昇圧剤などを手術中に微量点滴したりすることもあり、呼吸循環に関する専門知識が必要です。
麻酔の種類の選択や、麻酔をかける濃度については、手術の部位や内容を考慮して計画をたてます。
しかし、施術中に方針を変更しなければならなくなったり、手術の時間が長引くなどの場合は、麻酔の処置も変更しなければなりません。
このようなときに、執刀医と麻酔の連係プレーが必要です。
急性虫垂炎は、一般に腰椎麻酔で手術を行ないますが、汎発性腹膜炎の合併や大腸癌が発見されて術式が大きくなる場合には、全身麻酔が必要になります。
麻酔はその導入時、すなわち気管内挿管が上手くできるかどうかが最も大きなポイントです。
しかし、麻酔に習熟した医師がいれば、安心して任せられますので心配はいりません。
手術中のアクシデントとその対策現代の手術室は大型ジャンボジェット機の操縦室のように、すべてがコンピュータで制御され、実にさまざまな配慮がなされています。
しかし、それでも人の手や判断によって制御されているものもあり、電気や水など、万一供給が止まってしまうと大変なことになるものもあります。
電気については、自家発電装置を備えているところがほとんどで、万一停電があっても直ちに自家発電装置に切り替えて電力を供給できるようになっています。
水についても、ちょっとした病院なら自前の給水タンクを備えていて、万一の時でも最低限の水の供給ができるようになっています。
手術中の事故でいちばん怖いのは、ここの冒頭でも引き合いに出したように、スタッフの慣れから生じる単純なミスと言えるでしょう。
そのような単純なミスを防ぐために、医療機器や装置についてはさまざまな工夫や改良が加えられてきました。
たとえば、酸素や麻酔のガスを供給する管のコネクターは、同じ目的のものでなければ結合できなくなっており、その種の間違いはぜったい起きないようになっています。
また、さまざまなモニターにより、患者さんの異常をアラームで知らせてくれる機構も備わっています。
例えば、血圧の低下、不整脈、心拍数の減少、あるいは血中酸素濃手術には、小さなイボやできものを取るような簡単なものから、全身麻酔の必要な複雑極まる手術までさまざまあります。
その中でも十数年前まで大きな規模の病院で、年間二〜四○○件もの手術件数があったのが虫垂炎、いわゆる盲腸の手術です。
「外科医は虫垂炎に始まり、虫垂炎に終わる」という言葉があります。
これは消化器外科医がいちばん最初に経験する手術が虫垂炎の手術だからです。
虫垂炎の手術は、開腹手術の中でもいちばん基本とされています。
虫垂切除術は、盲腸からぶら下がった虫のような格好の臓器を取り去るもので、これは麻酔を含め三〇分くらいで終了する手術です。
その手技は、右下腹部を二?二一度の低下と二酸化炭素濃度の上昇、気管チューブが外れた時や麻酔器回路にもれがあると起こる気道内圧の低下などは、全て器機でモニターされています。
これらの装置のアラームが鳴った時に、的確に対応していけば大丈夫です。
斜切開し、皮下組織を分けて筋膜を切り、外腹斜筋を分けて内腹斜筋、腹横筋を分けて、最終的に腹膜を切り、そこから虫垂を探し当てて切除するという方法で、外科医はこの手術からスタートします。
しかしこの虫垂炎というのは、手術は比較的簡単でありながら、時に診断しにくい病気でもあります。
従来は「右下腹部に痛みがあり白血球が上がっていると虫垂炎である」と診断されたのですが、それは虫垂炎だけに見られる所見ではありません。
最近は虫垂炎の手術は減っていますが、少し前までは、右下腹部の痛みと白血球の上昇という所見が見られれば、即手術ということが多く、腹部を開いてみると実際は抗生物質で治癒する軽い炎症だったり、切らずにすむ他疾患であることが何回もありました。
誤診の中には、虫垂炎ではなく卵巣のう腫であったり、あるいは卵巣からの出血であったり、小腸の炎症、大腸の炎症、胃潰蕩等がありますが、三一歳で大腸癌だった人さえいます。
このようなさまざまな誤診例が、虫垂炎がいかに診断しにくい病気かというのを物語っています。
つまりこの診断しにくい虫垂炎と虫垂炎類似疾患を、いかに正確に鑑別し処置するか、また予定外の病気だった場合等を含め、その場その場の処置をいかに的確にこなすかが、外科医の目標の一つでもあるのです。
「虫垂炎に終わる」というのはそういう意味です。
このように「何が起こるかわからない虫垂炎の手術」こそ、簡単なようで、同時に外科医にとっては困難なものであるということです。
外科医にとっても女は魔物?「女は魔物」と冗談で言いますが、虫垂炎の診断・治療において、女性の患者さんの場合は、男性の患者さんの場合に較べて数段困難です。
私が経験した症例の中にも、虫垂炎だと診断して開腹したところ、前述の如く、卵巣腫傷の茎捻転であったり、卵巣出血(中間期の出血)などの婦人科疾患であったことがありました。
また卵巣の炎症や子宮外妊娠であったこともありました。
子宮外妊娠の時は、まだ未婚の若い女の子だったので、少しショックだったのを覚えています。
女性は男性に比べると右下腹部痛を訴える臓器、卵巣・子宮などの生殖器があり、それに起因する病気が潜んでい進む機械の改良最近五、六年で手術の道具や機械もめざましく発達しました。
中でも「超音波メス」CUSA(キューサー)というものは非常に有効で画期的なのものでした。
この機械は肝臓の手術などでよく使います。
肝臓は血のかたまりのような臓器なので、肝臓を切る場合は多量の出血をします。
それがCUSAを使用すると、肝臓の中の血管と胆管を浮き上がらせて、その部分をはっきりさせられるために、切ることが非常に簡単になりました。
その他、肝臓の手術に有効だったのは、マイクロ・ウェーブというものです。
これは肝臓に針を刺して、その針からマイクロ波を肝臓に流し、肝臓を白くカチカチに凝固させるのです。
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